ここ数年は親の事が頭から離れなかった。
年々老いていき、気力も衰えていった。
いっしょにいる時間を少しでも多くしようと思った。
いつお迎えがきてもおかしくないと覚悟していた。
好きだった海外旅行も止め、国内旅行も抑えた。
逆さは絶対に見せてはいけないと身体には気を使った。
事故にあわぬよう、意識して注意した。
夜学に通っていた青年期も充実したものではあったが、
この十年はそれ以上に充足した歳月であった。
「おまえ、いつの時代に戻りたい」と、もし問われたら、
この時期になろう。
だが、ほんとうのことを言えば「戻らず、このまま行かせて」と答えたい。
これからの道、熟年期とは違った展開が待っていよう。
これまでとは違った交流も起きるかもしれない。
新しい視点からの風景も見られよう。
そして、いつの日かその挽歌を高らかに詠うであろう。
願わくば
老いて熟して朽ちはてむ
春や近づく日ざしのなかに
2010/2/9