第1章 夫婦間のワンクッション

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 犬がいたころはよかった。 会話は犬を介して成立していた。

 「ハッピー、また置いてきぼりだぞ また出かけるんだってさ」とか
 「台所でまたなにか落としたようだぞ ドジだよな!」とか。

 おふくろが死んで、
夫婦ふたりだけなんだと感じ込むことが時々ある。
食卓に座ったときなど、特に感じる。
耳が遠かったので会話は進まなかったが、
その存在は大きかった。
 今回のオリンピック放送はよく観た。 夫婦でテレビ観戦した。
こんなことは過去になかった。

 ワン・クッションあると夫婦の会話はうまく転がる。
テレビに向かって声援したり、ためいきをついたり。
オリンピックは大いに話題を提供してくれた。

 話しは変わるが、車を運転しているとき、
言い争いになりかけることがある。
 「また道を間違えたようよ だめね!」と横から口をいれる。
 「いいんだ この道で」と言いかえす。

遅まきながら、カーナビをつけた。
これがいい按配でワン・クッションになる。
 「このカーナビ、こんな道をガイドするのか
  このルートで行くと遠回りになるぞ!
  ばかだなあ〜 このカーナビ 」

 指示からはずれると、ナビは再びルートを探す。
その懸命さがかわいい。

指示に沿ったり、はずしたり、そんなことを繰り返していると、
お互い、関心はカーナビの次の出方に向かう。
沈黙も、言い争いも、どこかにいってしまう。

 夫婦間には、ともに関心が向く何かが必要なのであろう。
ハッピーがそれであったし、おふくろもそうであった。
子供も孫もいないなら、なおさら意識して見つけねばならない。

  懲りもせず
  何か来るかと春を待つ
  外はいまだに曇天のもと

2010/3/1
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