第2章 技術の進歩ってありがたい

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いまさら"技術進歩のありがたさ"なんって書くのもなんだが、
それでも、ありがたいことには違いない。

 先だって、四国遍路に行ってきた。

若いころ、といってもそんな若いときではないが、
数回にわけて、阿波、土佐、伊予とまわり、
讃岐に入ったところでストップしてしまった。
今回、残したうち、八十一番から八十六番までを打ってきた。

  年重ね いま再びの遍路ゆく
  ところもよしや涅槃の讃岐
 中断していた三十年の時の流れを感じた。そして、
 こんなにも甘えが増殖していたことに驚いた。

三十年前の歩き遍路は苦行疑似体験であった。
それが今回、なんと怠惰なお遍路であったことか。
文明の利器を、そして、そのありがたさを享受した。

 あの当時、贅沢であった飛行機が気楽に利用できるようになった。

ネットで簡単に予約ができ、カードがあればそのまま搭乗できる。
そして、ありがたいことに値段だって格段に安くなった。
列車利用より安い。夜行バスよりも安い。

 空港に降り立つと、予約していたレンタカーが用意されていた。

歩き遍路なら半日がかりの登りも1時間ほどで山頂に到着した。
カーナビがあるから、それに従って行けばよい。
これもありがたい。

 二日日は少々反省し、随所で電車を使ったものの、
 できるだけ歩くことにした。

八十四番の屋島寺への登りはきつかった。
でもその遍路道はきれいに舗装され整備されていた。
あの昔の、せんろ札をたよりに歩む山道ではない。

夕が近づき、足を引きずり、やっと見つけた遍路宿に
ほっとするという昔の感慨はないけれど、
事前にリザーブしてある宿があるという安心感もいい。
情報を集め、予約が入れられるというネット環境もありがたい。

 航空路線の発展、車生活の定着、情報化社会の浸透、
 どれをとっても、わたしの旅のあり様を変貌させた。

無理ができない歳になった身には、
この三十年の技術進歩はほんとうにありがたい。
これからも享受させてもらうことになろう。

 しかし、考えてみれば、
 あの若き日の一徹の遍路旅はなんだったのか。

あえて苦を身にかせる姿勢はなんであったのだろう。
いまや、それは夢のようであり、そのエネルギーもない。

 そのことをあらためて感じたことが
 今回の遍路から得た最大の収穫なんだろう。

2010/3/23
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