第10章 四国遍路 その4 おかげをもって

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岩屋寺口からのバスがない。

 歩いて戻る気力もなければ体力もない。
 夕暮れが近づいている。
 ここは甘えて車に乗せてもらうしかない。

寺から一般道に出てくる角のところでサインを出す。

 車がとまってくれた。
 「下の町まで乗せてください」と頼む。
 中年の男性は助手席を片付け、乗せてくれる。


車をつかって遍路する人も増えている。

 ご夫婦でまわられている方も多い。
 おじいさんやおばあさんとの家族づれも見かける。

今回、乗せてくれた男性は一人で遍路されている。

 神戸から来たそうだ。今日で五日目だという。
 車のなかで寝起きして、まわっている。
 乗せてもらったおかげで、20分ほどで久万町に着く。

お礼を言って降りる。今夜の宿を探す。

 幸いにして予約なしの飛びこみで泊めてもらえる。
 ダメなら、最終バスで松山に戻れるか微妙なところ。
 頼んだら、食事も提供してくれるという。

翌朝、高知方面から来る路線バスに乗る。

 松山の市内へいくバスだ。
 乗客は私を含めて三名。
 バスはカーブ、カーブがつづく峠道を下っていく。

一時間ほどして、お年寄りの二人がつづけて降りた。

 病院前で、もう一人は大型郊外型スーパーの前。
 このバスは山の上の町に住む者にとって生活路線なのだ。
 それに便乗させてもらったのだ。

   もろもろのおかげをもってまわりきて
   ひとりでないと知る遍路

松山から高松までは高速バスを利用する。

 既に打ち終えている寺々の場所を想像しながら、
 快適といおうか、人工的なバス移動だ。
 高速自動車道ができて便利になったといえばそうだが、
 なにか申し訳ない気分がする。


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