岩屋寺口からのバスがない。
歩いて戻る気力もなければ体力もない。
夕暮れが近づいている。
ここは甘えて車に乗せてもらうしかない。
寺から一般道に出てくる角のところでサインを出す。
車がとまってくれた。
「下の町まで乗せてください」と頼む。
中年の男性は助手席を片付け、乗せてくれる。
車をつかって遍路する人も増えている。
ご夫婦でまわられている方も多い。
おじいさんやおばあさんとの家族づれも見かける。
今回、乗せてくれた男性は一人で遍路されている。
神戸から来たそうだ。今日で五日目だという。
車のなかで寝起きして、まわっている。
乗せてもらったおかげで、20分ほどで久万町に着く。
お礼を言って降りる。今夜の宿を探す。
幸いにして予約なしの飛びこみで泊めてもらえる。
ダメなら、最終バスで松山に戻れるか微妙なところ。
頼んだら、食事も提供してくれるという。
翌朝、高知方面から来る路線バスに乗る。
松山の市内へいくバスだ。
乗客は私を含めて三名。
バスはカーブ、カーブがつづく峠道を下っていく。
一時間ほどして、お年寄りの二人がつづけて降りた。
病院前で、もう一人は大型郊外型スーパーの前。
このバスは山の上の町に住む者にとって生活路線なのだ。
それに便乗させてもらったのだ。
もろもろのおかげをもってまわりきて
ひとりでないと知る遍路
松山から高松までは高速バスを利用する。
既に打ち終えている寺々の場所を想像しながら、
快適といおうか、人工的なバス移動だ。
高速自動車道ができて便利になったといえばそうだが、
なにか申し訳ない気分がする。