プラド美術館回想
Flash:第1章 ベラスケスの「ラス・メニーナス」
昨年、"パックツアーでスペインに"のシリーズを書いていた。
それが"第14章"で中断してしまった。
いまあらためて"プラド美術館回想"として継続してみる。

第1章 ベラスケスの「ラス・メニーナス」

プラド美術館の中央にスペインが誇る展示室がある。

ベラスケスの間と呼ばれる部屋だ。
有名な傑作「ラス・メニーナス」が展示されている。
ベラスケス(56歳)が1656年に描いた記念碑的作品だ。
フェリペ4世の王女マルガリータが描かれている。



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ハプスブルク両家は結婚によって結びつきを深めていた。

マドリードのマルガリータがウィーンに嫁ぐことは、
幼いころより決められている。
マルガリータ王女を描くことはベラスケスの重要な仕事だ。
オーストリアのハプスブルク家に彼女の成長を知らせる。
肖像画はその役目も担っている。
マルガリータの肖像画は数多く残っている。

この「ラス・メニーナス」はその一連の肖像画とはちがう。

この絵はテレビなどで何度も目にした。
だが実物の前に立つと不思議な気分がわきおこる。
マルガリータは確かに絵の中央部分に描かれている。
だが彼女を描かれているのではない。

あまりに多くの人物が登場しすぎる。

マルガリータにかしずく二人の女官、
右手には矮人の男、その横に少年、その前には大きな犬、
ぼんやりと後ろに二人の女性がいる。
奥の扉を開け、光りのなかに消える男性が小さく見える。
そして、なによりも存在感があるのが、
絵の左手に立つ画家ベラスケス本人だ。

これではマルガリータの存在はかすむ。

絵にはもう二人、描かれている。
鏡に映る二人の人物だ。
ベラスケスが仕えるフェリペ四世と王妃といわれている。
その姿は鮮明でなく、なにかとってつけた感じがする。
絵の主役であるべき人物が霞んでしまっている。

この集団肖像画は何を意味するのだろう。

プラド第12室の正面に飾られるこの絵は予想以上に大きかった。
10mほど離れないと全体が目におさまらない。
しかし、人物たちの描写はキャンバスの三分の一程度しか使っていない。
あとは闇ともいっていい。
近づき、目を凝らしたが仔細は判別できない。

ベラスケスは誰を描こうとしたのだろう。

中央の幼いマルガリータだろうか。
鏡にぼんやりと映るフェリペ四世国王夫婦か。
すべてが闇の重圧で縮んでしまっている。

目立っているのはキャンバスだ。

絵筆をもつベラスケスのまえにそそり立つキャンバス。
絵の上部にとどく程の高さの巨大なキャンバス。
人物たち以上に存在感がある。

さらに言えば、ベラスケスだ。

構図の脇で遠慮しているようみえて、
絵の主役であるかのような顔で立っている。
この絵をみる者を逆に見返す眼力は鋭い。
画家ベラスケスとキャンバスがこの絵の主人公なのか。

画家は自己主張している。

マルガリータとその周辺の人々を描くことにかこつけて、
画家自身を前面に押し出している。
画中のベラスケスは画家としての誇りと威厳をもって迫まる。

"画家も騎士であるぞ"と主張している。

画家は手作業するゆえ低い身分とみなされていた。
画家でも貴族の地位に上がれると主張し、そのための運動をする。
この絵を描いた翌年1659年、彼が待ち望んでいた貴族としての地位
"サンティアゴ騎士団"の栄誉を手にする。

ベラスケスの凄さに身が震えた。

一年近く経ったいまでも思い返される衝撃だ。

プラド美術館回想  2013/5/10 記

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