プラド美術館回想 第4章 ゴヤの「カルロス四世の家族」
Flash:第4章 ゴヤの「カルロス四世の家族」

第4章 ゴヤの「カルロス四世の家族」

最も強い印象深かったのがこの作品だ。

マリア・ルイーサ王妃の高慢ちきな顔、美しいとは言えぬ立姿、
よくも王妃はOKを出したものだ。
一方、カルロス四世は頼りげなく、脇役のように立つ。
もっと威厳ある姿に描けと、なぜ注文を出さなかったのか。


ゴヤは彼自身をこの絵のなかに描き込む。

個々ばらばらの家族を傍観するように、ゴヤはものかげに立つ。
ベラスケスの「ラス・メニーナス」のように存在を主張してはいない。
不安げで、この家族の行末を予感しているようだ。
スペインブルボン家、最後の集合家族絵だ。



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絵が暗示するように王家は崩壊へと進んでいく。

いまや、フランスはナポレオンの時代だ。
彼の野望はスペインをも混乱に陥れる。
1803年、英仏間で戦争が勃発する。
フランスと同盟関係にあるスペインは仏側に組する。
だが1805年の海戦で、フランススペイン連合艦隊は壊滅する。
スペインは植民地アメリカとの連絡が途絶させられる。
スペイン世界帝国は終焉へ突き進んでいく。

国内でも民衆暴動が多発する。

反ゴドイの権力闘争も繰り広げられる。
ナポレオンはこれに乗じる。
スペインブルボン王室の廃位と諸権利放棄を強要する。
1808年、ナポレオンの兄ジョゼフをスペイン国王に任命する。

ゴヤは表舞台から退場する。

この間、沈黙していたのではない。
戦争の惨禍に目をそむけない。
その現実も見つめ、記録し、表現していく。
それが版画「戦争の惨禍」のシリーズだ。
そこには、明るいカルトンの画家、野心に燃える画家、
栄光の宮廷画家、超人気画家の姿は消え去っている。

単なる栄光の宮廷画家ではなかった。

ゴヤは激動の時代に生きる人間のあかしとして作品を残してくれた。
これが私がゴヤに引き寄せられつづけた源泉なのだろう。


プラド美術館回想  2013/7/26 記

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