熟年挽歌 15.  デジタルな夏

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 あれほど好きだった夏なのに家に閉じこもったままだ。

年とともに動く気が失せるというと言い訳がましいが、
いつか自由に家をあけられる時期が来るのを
いまは待っている。

今年の夏は 室内でデジタルな日々をおくっている。

 1時限目 ネットを介して得たデジタル音源でクラシックを聴く
      その名も音楽の時間
 2時限目 借りた画集をながめ、解説書を読みつつ美術の時間
 3時限目 デジタルペイントソフトを使った実習の時間
 4時限目 デジタル録音したラジオ講座に学ぶ文学の時間
 5時限目 WiiFitボードに乗って点数を競う体育の時間
 6時限目 キーボードの光るパットを追ってピアノ演奏の時間

 放課後は PCに録画した韓国ドラマを楽しむ時間


いうまでもない。これらはすべて仮想の世界でのお楽しみ。
本来ならリアルの世界で味わうべきものだ。

 音楽は生で聴かねば本物でないし、
 音楽が生まれた土地で聴ければなおさらいい。

 写真で見る絵は実物とはまったく違う。
 絵が描かれた彼の地の光り、風、色彩のなかに身を沈めたい。

しかし、そうは思いつも、
デジタルの世界も捨てたものではない。

 結構愉しめるし、それに基礎知識を得るには最適だ。
 いつか、本物のなかに身を置いたとき
 その感激は数倍、数十倍になって返ってくるだろう。

ルーブルを時間をかけてめぐってみたいし、
早朝のオルセーを独占したいとも欲張る。
あゝ、行きたいところがたくさんある。

 フォンテーヌブローの森に、シャイイ村。
 サン・ラザール駅から乗り込んで港町ル・アーヴルへ、
 そして、トゥルーヴィルの海岸、サン・タドレスの浜辺。
 ブージヴァルのはずれの丘のサン・ミシェル村に、セーヌ川。
 ゴッホのアルル、その近郊のサン・レミ、
 北に戻ってオヴェール・シェル・オワーズ。
 そうそう、セザンヌのエクサン・プロヴァンスも。

韓国ドラマに刺激を受けて勉強した歴史の地にも行ってみたい。
ショパンを追って、ポーランドから地中海マジョルカ島へ。
バンクーバーのスタンレーパークはもう一度走ってみたいジョギングコース。


 今年は、将来の旅を夢見るデジタルな夏だ。

  印象の画集ながめつ夏の夕
  いつかあびたし
  かの地のひかり

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