熟年からのインターネット NO.94
第五章 メーリングリストの風景

  3.カフェテリア

 MLのファイナルシーンはカフェテリアです。

DやSやTと近年、手軽に立ち寄るしゃれたコーピー ショップが増えました。今日もそこでコーヒーを飲み ながらMLのことなど考えていました。しかし、まわ りを見廻すと、どうもここの感じは僕のML風景とは 違うのです。

たしかにいっときくつろぐという点では共通します。 しかし、よくよく眺めると客はみなバラバラなのです。 ひとりの客が圧倒的で、2,3人のグループもいます が、なにか離れた感じなのです。

僕が思い描くのはサンマルコ広場に面したカフェテリ アでもありません。観光客であふれる一休みの一過性 の場ではないのです。

 僕の風景は常連さんが集まるカフェなのです。

それもオープンカフェがいいですね。街路樹は青葉、 爽やかな風がほほをなでる。何人かがテーブルを囲み、 どうってないことをおしゃべりしている。となりのテ ーブルで新聞に目をやっている男がいる。読んでいる かと思ったら、会話にちゃちゃを入れる。ときには、 まじめな顔で話し込む。おゝ、おしゃれな女性がまえ を通る。またひとり、本を片手にやってきた。

「ここにおかけよ」
「ありがとう」
「最近、なにを読んでいるの?」なんて会話が始まる。

「今日は気分がいい、おーいマスター、おかわりや」

店の奥でコップをふいていたマスターが煎れたてのコ ーピーを運んでくる。そして会話に加わる。

「最近、XXさん、顔をみせないね?」

マスターが答える。

「なにやらあって、親のところに行っているとか聞きましたよ」
「そりゃ、たいへんだ」

転勤でこの土地を離れていく人、親の介護で田舎に移 る人、仕事が忙しく足が遠のく人、体調を崩す人、い ろいろいます。しかし、去っていっても、くつろぎ、 語り合ったのもこのカフェテリア。記憶の片隅に残し ていてくれるものとマスターは、そしてみんなも思い ます。

 ところで、職場が変わったとか、住むところが変わ ったとかで、よく行っていたのにすっかり忘れてしま っている店なんてありますね。それが、何かの用事で 近くを通ったときなど、ふらっと立ち寄ってみようか なあと思うことがあります。

 このカフェテリアだって、こちらに来たときにでも 顔を出してくださいよ。

ふらっと立ち寄る。店を見廻す。

「お久しぶりです。まだ元気でおられたのですね」

なんて、昔のよしみ、遠慮のない言葉が出る。

「そっちこそ、元気でなにより」

足が遠のいていたのはほんの一時と思っていたが、 見知らぬ人もいる。

「この方、ちょっと前までこの近くに住んでいた、  この店の常連さんですよ」
「そうですか、最近、引っ越してきました。  よろしくお願いします」
「こちらこそ。また、おじゃましようかしら」
「それは大歓迎! マスターも喜びますよ。  昔のように語り合いましょうや」

そんな会話をマスターは昔とかわらず、コップをふき ふき聞いている。

木も風も、そして人々も変わぬ風景がそこにある。




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