第8章 四国遍路 その2 人との出会い

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旅の愉しみにはいろいろある。 人との出会いもそのひとつだ。

 松山に着き、市営の駐輪場で自転車を借りる。
 市街地をぬけ、最初の目的地五十三番円明寺に向う。
 寺に着き、自転車を停め、境内に入る。
 参拝を終えたおばあさんが近づいてくる。

 「気持ちだけよ、少ししか入っていないから」と
 いいながら、小さな紙の包みをにぎらせる。
 私は礼をいい、長生きした母のことなどいっとき話す。

 「自分も歩けるときは何度となく廻ったんだよ」。
 近所に住んでいて、こうしてお参りしているそうだ。

こんなとき、あゝ来てよかったとつくづく思う。
こういう出会いがあるから、歩き遍路はたまらない。


巡礼をしている者同士の出会いも色をそえる。

 歩き遍路はおおよそ寡黙な人が多い。
 重たい事情をかかえ、おへんろをされている方もいる。

 出会うと一応は「こんにちは」と声をかける。
 その反応をみて、その後を決める。
 話したくない人もおれば、そうでない人もいる。

四十五番岩屋寺を打ち、泊まったへんろ宿、
年のころ七十にはもうちょっとと思われる男性と食堂で会う。

 隣りのテーブルなので、挨拶して席につく。
 話を聞いてみると、片肺が機能していないとのこと。
 そんな身体で歩き遍路をしている。

 「登りになると、息がきれて足が前に進みませんよ」という。
 だが、テーブルの上にタバコの箱。それに気づいた私に、
 「医者にはやめろといわれるが、いまさらね」と言い返す。

 こんなこと、口には出せないが、
 他者と比べると先はそんなに長くないことを
 本人はもうとっくに自覚しているのではなかろうか。

八十八番大窪寺へのバスで乗り合わせた若者も印象深かった。

 足が若干不自由で杖2本をつきつつ、巡礼している。
 今回で二度目の結願だそうだ。
 彼とはバスを待つ間、いろいろ、話ができた。

四国遍路は人々が織り成す曼荼羅のようだ。


   さまざまの思ひが入りてまじりあふ
   四国へんろに我れも色をそふ

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