熟年挽歌  5. 廃墟

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 2009年はやゝ趣向を変えて、 歌を織り交ぜながら綴っています。 熟年期総括のつもりです。

今回はその5回目です。


  いま住むところ、近年の様変わりは著しい。
  世代交代の時期に入ったのだろう。
  家が壊され、新たに家が建ち、住民が入れ替わる。

戦後、ここに移り住み、ここで数十年の歳月を
暮した人たちもいまではすっかり年老いた。
そして、老人は街を去る。

その行く先は介護付きホームか、あの世とやらか。
あとに残るは、小さいながらも住み慣れし家と、
狭いながらもわが庭と丹精こめた庭木たち。

  自転車でかどを曲がると

 住む人は亡くなりしかこの家も
 ブルのシャベルにがぶり喰われる

この残酷なさまに、当事者でない私さえ涙する。

  もちの木も
  マシーンは無残にかじりぬく
  ともに息した住み人いかに

見れば、運転台のオペレータには表情がない。
背後から、現代の冷酷な経済原理の顔がのぞきみる。
もうそこには、あはれとか、はかなさなんていう
情緒的な世界はない。


  だれも住まなくなった家をみかけることは、
  昔はよくあった。

もとの住民の霊が宿るみたいな雰囲気があって、
小さかった私には少々ぶきみなところもあったが、
いま思うと、おさな心にあはれの原型を感じていたのかもしれない。

このごろ、そんな廃墟が見当たらない。
売ってしまえというばかりに、余韻を残す日かずもなく、
ただちに根こそぎ取り壊される。
そして、リセットされ、ただの更地がむき出しとなる。

思い出の家も、手入れしつづけた木々たちもあとかたなく殺され、
かわってゴテゴテ文字ののぼり旗が更地を突き刺す。

   いき方を思ふて詠ふ

  来しかたもいまあることも
  ともどもに根こそぎぬかれ
  いづかたゆくや

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