熟年挽歌 22. 母の死

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 前回"喪中につき"の題で書いたら、
今度は自分が出すようになってしまった。


 12月1日の朝、母に迎えが来た。 九十八歳の大往生である。

明治の女は強いというか気丈だ。
死の前日までトイレはガイドが必要とはいえ、
ひとりで用を足していた。
二日まえまで風呂にもひとりで入っていた。

当日の朝、寝室をのぞいたら、すやすや寝ている。
一時間後にベットに朝食を運んだら、息がない。

 こちらも覚悟していた。 事には冷静にあたれた。

一応かかりつけの医者には連絡を入れたが、
110番に私から直接電話した。

 しかしその冷静さがあだとなったか、
その後に繰り広げられた大騒動はたいへんなものだった。

消防車の到来、駆け下りる救急団員の集団、
警官がひかえる、つづけて刑事も来る。
人を変え、繰り返される事情聴取。
立ち入り禁止にされての現場検証。
最後は検死医の登場。
結局は老衰の判定が下るが、
心機能がなんたらこうたらの死因名が記される。
この間、4時間有余。

自宅で死ぬのもたいへんなことだ。
過去にどのような手術をしたか、痣はあるかなど、
いろいろ聞かれる。知っておくべきだった。

死の直後に大騒動があったとはいえ、
本人が強く望んでいた自宅での死がかなったわけで、
点滴や延命治療もされず、よかったと思う。

それに、周りの者に世話もやかせず、
自分のことは自分でやりきった。

  それはあっぱれな死であった。
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